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新進若手アーティストの登竜門 資生堂ギャラリー shiseido art egg 岩崎宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」


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shiseido art egg

資生堂ギャラリーが2006年から始めた新進若手アーティストの公募展shiseido art egg はこれまでに宮永愛子、久門剛史、冨安由真など現在大活躍するアーティストを数多く発掘してきた現代美術の登竜門の一つです。

毎回3人が選出され、各々約1ヶ月間の展覧会会期が設定されています。

第17回は応募総数351件の中から林田 真季(はやしだ まき)、野村 在(のむら ざい)、岩崎 宏俊(いわさき ひろとし)の3人が選出されました。

審査員は3名で毎回メンバーが変わります。第17回は鬼頭 健吾(美術家)、蓮沼 執太(音楽家、アーティスト)、平藤 喜久子(神話学者、國學院大學教授)の方々です。

入選した3名のアーティストは賞金の他に資生堂ギャラリーで個展を開催する機会を得るのですが、第17回の最後を飾るのは岩崎 宏俊です。

資生堂銀座ビル 写真:建築とアートを巡る

▲リカルド・ボフィル設計の真紅のビル。資生堂パーラーが入るビルの地下に資生堂ギャラリーはあります。

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ブタデスの娘/Daughter of Butades

岩崎宏俊の展覧会は「ブタデスの娘/Daughter of Butades」です。

”ブタデスの娘” というのはローマ神話の登場人物で、戦地に赴く恋人の姿をとどめようと壁に映る影をなぞって残しました。ローマの博物学者で軍人でもある大プリニウスがその書「博物誌」に絵画の起源であると記したことで広く知られています。

岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

岩崎宏俊は実写映像をトレースしてアニメーションとする「ロトスコープ(Rotoscoping)」という手法を用いた作品を制作してきた作家です

作家が失われた風景や人物をなぞって作品化する行為がブタデスの娘のようであることからこのようなタイトルになったようです。

しかし、単に映像をなぞって追憶を蘇らせるだけでなく、社会が記憶している映像を批評的に付け加えたり、西脇順三郎の詩的世界を織り込んだりすることで、過去と現在と未来が行き来するようなアニメーションになっているのです

展覧会

地下の会場に向かう階段の踊り場に、小さなA4サイズの作品が2点展示されています

《ブタデスの娘》のための原画#1, #2, 岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲これは地下展示室で上映されているアニメーション作品《ブタデスの娘》のための原画です。

《ブタデスの娘》, 岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲踊り場からすでに展示室の壁に投影されている作品が見えます。

年輪をなぞるこの映像はアルフレッド・ヒッチコック監督の傑作「めまい」からの引用。人間の歴史と人の命の短さを対比させるシーンです。

《ブタデスの娘》, 岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲かと思えば西脇順三郎の ”過去は現在を越えて未来に突き出す” という詩の一節が引用されていたりします。

結果的に作家の個人的な記憶、追憶と人間の普遍的な記憶とがコラージュされたアニメーションになっているのです。

8分27分という短いアニメーションですが見るたびに新しい気づきや解釈が生まれ、何度も何度も見返したくなる素晴らしい作品です。

《ブタデスの娘》, 岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲この作品はアニメーションの中にはロトスコープの制作方法も登場するというメタな構造を持っています

映像の一コマを捉え、本質的な、本当に必要な部分だけをトレースし、余計な部分は描きません。

《ブタデスの娘》,岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲空白だらけのモノクロのアニメーション。

でも必要なものは全部あるけど、不要なものは何もない。潔い作品です。

《スキア》, 岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲《ブタデスの娘》が投影されている壁の反対側の壁に展示されている《スキア》。

映像をトレースして描いたものにLEDライトを当てることで、再び影として見えてくるという作品。映像→トレース→影 とメディアを変えていくとその姿や時間も変わってしまったということですね

展示室には作品の邪魔にならないよう注意深く気配を消されたベンチが用意されていて、空間まで含めてこだわったインスタレーションでもあることが分かります。

《半透明の記憶》, 岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲資生堂ギャラリーの広いスペースは《ブタデスの娘》と《スキア》だけですが、奥のスペースには《半透明の記憶》と《ブタデスの娘のためのゾートロープ》の2点が展示されています。

《半透明の記憶》の方はアクリル板に《ブタデスの娘》の場面が転写されたもの

岩崎 宏俊「ブタデスの娘/Daughter of Butades」資生堂ギャラリー, 2024年, 写真:建築とアートを巡る

▲「《ブタデスの娘》のためのゾートロープ」と作品を解説する岩崎宏俊。

ゾートロープ(Zoetrope)というのは回転のぞき絵。スリットの入った円筒を回すと内部の面に描かれている静止画が動いているように見えるというもの。

このゾートロープを近くで覗くと《ブタデスの娘》の一場面が見えるようになっています。

なお円筒は自分で回す手動式です。

ロトスコープ手法によるアニメーション作品ですが、様々な映像の記憶からの引用、作家の個人的な記憶などがトレースされた複雑な作品でまさにアーティスティックな作品でした。

撮影について

今回の展覧会は通常の展覧会同様に、写真撮影が可能です。ただしアニメーション作品《ブタデスの娘》の動画撮影は30秒以内に制限されています

今回の 入選者からshiseido art egg賞の受賞者が決まり、6月中に発表される予定です。林田真季、野村在、岩崎 宏俊のどなたが受賞するのでしょう、発表が楽しみです。

▲3アーティストの展覧会を全て鑑賞してスタンプを集めると特製グッズ(写真右)がもらえます!

16回 shiseido art egg ▼

基本情報

第17回 shiseido art egg 岩崎 宏俊展

 

2024年4月23日(火) ~ 5月26日(日)

火~土 11:00~19:00、 日祝11:00~18:00  月休

入場無料

資生堂ギャラリー

中央区銀座8丁目8−3 資生堂銀座ビル B1F MAP

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